私とベートーヴェン

ベートーヴェンは、私にとり「神様、仏様、ベートーヴェン様」である。私の趣味は、ベートーヴェン関連の切手類を集めストーリーを展開すること。この世界では「テーマティク・コレクター」と呼ばれている。そのため、めぼしい本はすべて漁った。おかげでこの10年間は充実した人生だった。
2004年に肺炎で2週間ほど入院した。余生を思案の末、子供の頃から親しんできた音楽切手収集の再開を決めた。その秋、全国切手展に「ベートーヴェン-その生涯と歴史的背景」として応募したところ、いきなり「金賞」を頂いた。
何せ、すぐに舞い上がる性格である。この世界には、欧州本拠の国際郵趣連盟なる組織があり、各国10年に一回しか開けない世界展を開催している。これに挑戦しようと、先ず2005年ルクセンブルクの欧州戦に勇んで出かけた。だが、さすが本場だ。厳しい評価で、2段下の「金銀賞」だった.
    根っからの負けず嫌いである。以来、有名なオークション・ハウス相手に希少品を落しては改良を図り、ミルゥオーキー、ザルツブルク、ゲント、バンコク、テルアビブ、洛陽、ソウル、ヴォルムス、デンバーと毎回自作持参で応募してきた。2013年、ブラジルでの世界展で初の「大金賞」を頂いた。今年、ついにゴールの三回「大金賞」を達成した。テーマティク部門では、日本人初の快挙である。
この巡礼の旅には、思いがけない寄り道もあった。「第九」日本初演の地、板東俘虜収容所の音楽家パウル・エンゲル自筆の手紙を入手した縁で、先ずベートーヴェン・ハウス・ボン編「第九と日本 出会いの歴史」を監訳出版できた。2012年春、私のコレクションの特別展を同ハウスで3か月間も開いて頂いた。室内楽ホールでの開会式で「11のバガテル」(op.119)が演奏された。それは小品の一括りなので、切手コレクションに似ているとの意外な理由からであった。ホテルに戻ると、ドイツ人招待客の一人から、「これはベートーヴェン時代の独創的ミニチュア文化史だ」とお褒めのメールが届いていた。このイベントは、わが郵趣人生最高のハイライトとなった。
一段上がると、また新しい地平線が見えてくる。振り返ると、いつも「見えざる手」に導かれて来たような気がする。ベートーヴェンが、気難しい顔つきだが優しく手招きしてくれている様に思えてならない。次はチャンピオンシップへの挑戦だ。巡礼の旅はまだ続く。

(2015年11月26日  大沼幸雄)

トップへ戻る